楽園ハワイとイスラムアートに恋した女性、ドリス・デュークが生涯をかけた理想郷。いまでも宝物として大切に受け継がれている美術遺産、シャングリ・ラ邸。
こんにちはハワイナビです。
1935年、10ヶ月間の世界一周ハネムーン旅行で最後に立ち寄ったハワイで自分の居場所を見つけてしまった女性は翌年には財産を持って舞い戻り、現在では高級住宅地として最高の立地を誇る、ダイヤモンドヘッドのふもと、ブラックポイントに5エーカーの土地を購入、そこに彼女の理想郷ともいえる大邸宅建築プロジェクトが始まりました。邸宅の名前は「シャングリ・ラ」といって、理想郷という意味を持つのです。大好きなイスラムアートを惜しみなく取り入れた、彼女のとっておきの宝物とでもいえるでしょう。
ドリス・デュークってどんな人?
遺産を相続した12歳当時のドリス・デューク
ドリス・デュークは1912年、ニューヨークで生まれ、ロードアイランド州ニューハンプシャーで育った、大富豪の一人娘。父親は、タバコと電気会社の経営で成功を収め、一代にして巨万の富を築いた大実業家のジェイムス・ブキャナン・デュークです。ドリスがまだたったの12歳の時に父が亡くなり、一人娘であった彼女は当時のお金で約1億ドル(現在の価値で約10億ドルにもなります)の遺産金を手にしました。
新婚旅行でハワイに到着したドリス・デュークと夫のジェイムス・クロムウェル
世界一リッチな少女となった彼女は、世間のわずらわしいともいえる好奇の目から避けるように旅行、芸術鑑賞、訪れる場所の歴史や環境に興味を示し、自由奔放に人生を送る。そんな中でも22歳で結婚し、新婚旅行で訪れた中東の各地のイスラム芸術に興味を抱き、その後はインド、モロッコ、エジプト、シリア、イラン、イラク、トルコなどの国に芸術作品の収集目的として幾度となく足を運びました。
長身でスリムなドリスはスポーツ万能で、ハワイ滞在中は、たまたま同じ苗字を持つ、かの有名なカハナモク・ファミリーと親交を持ちました。中でも、サーフィン、カヌーパドリング、セイリングなどマリンスポーツはドリスの趣味の一つでもあったといいます。
写真提供:Nate Farbman, courtesy of the Doris Duke Foundation for Islamic Art
ドリスは二度の離婚と晩年の養子縁組でのトラブルなど、苦い経験をしながらも、ハワイのすばらしい自然とシャングリ・ラ邸建築の情熱が彼女を支え続桁といっても過言ではないでしょう。ニュージャージーの広大な牧場をはじめ、ロードアイランド、ニューヨークなどにも邸宅を所有していたといいますが、彼女が設計から携わったのは、シャングリ・ラだけでした。関係者はみな、「彼女の才能は美術品収集の目があるだけではなく、時には建築家として、経営者としてもただ者ではない」と口をそろえて言います。1993年、80歳にして生涯を閉じた時には、彼女の不動産の資産を含む9割は彼女の名前を冠した財団に寄付されました。
シャングリ・ラ(理想郷)
シャングリ・ラ邸は1937年に完成しました。邸の外側はダイナミックな太平洋と緑豊かなガーデン、プールや噴水から成る、ハワイの自然と見事に調和したもので、邸宅内には3500点以上ものアートを散りばめたイスラムアートの魅力であふれています。
収集品は展示品というよりも、生活の中のインテリアディスプレーといった感じで、天井に描かれた鮮やかな中近東スタイルの絵画や、彫刻の施された扉や壁を覆う細かな細工を施したモザイクやタイル、パネル、織物、部屋に並べられた陶磁器や骨董品の数々は、ドリス本人が中東・アジア各国、また、ニューヨークの骨董市などでで買いつけ、また足を運びさらに買い足し、並べ替え、という作業を数十年続けた積み重ねが、現在のすばらしい、誰にもまねの出来ないほどドリスの個性があふれた、「シャングリラ」が出来上がったといえるでしょう。
世間の注目から逃避し、大好きなハワイの地に好きなものばかりを集めて創り上げたシャングリラは、誰のものでもない、彼女にとっての理想郷であり、宝物、そして彼女の生涯そのものであるのです。
シャング・ラ ガイドツアー
シャングリラは、ホノルル・アカデミーオブアーツのみが邸内の観覧を兼ねたガイドツアーを任され、このツアーのみが一般公開することを許されています。まずはオンラインか、ホノルル美術館に足を運び,「シャングリ・ラ」ツアーを申し込みましょう。料金は下記を参照してください。
ツアーは1回12名まで。ホノルルアカデミーオブアーツによるガイドツアーでのみシャングリラを訪れることができます。
ツアー当日に渡される名札。ツアーのときは身につけていなければなりません。
電話予約: 808-532-3853
料金: $25(ハワイ居住者は$20)12歳以下は不可
ツアー時間 : 水曜〜土曜 9:00〜、10:30〜、13:30〜(所要時間:約2時間半)
休み: 毎年9月、主な祝日
集合場所: ホノルル・アート・ミュージアム(ビデオ映像鑑賞の後、ミニバンでシャングリ・ラ邸まで移動、見学後、アカデミーオブアーツに戻り解散)
当日の待ち合わせ場所は「ホノルル・アカデミー・オブ・アート(ホノルル美術館)うら口のエントランス付近です。ここからミニバンのシャトルバスにてダイヤモンドヘッドにあるブラックポイントという高級住宅街の中建つ,「シャンラグリラ」まで向かいます。
また、待ち合わせ時間はシャトル出発時間の30分前が原則で、出発までの間は美術館内のイスラムアートの展示を自由に観覧でき、また、ミニムービーシアターにて、創設者のドリスデュークにつての生い立ち、シャングリ・ラ創設に当たって話題に関するビデオ映像を見ることが出来ます。
出発前に鑑賞できるドリス・デュークの収集したイスラムアートの展示品の数々。イスラムの芸術でありながらあるものはスペイン調、あるものは東南アジア調と芸術品も大陸のつながりで似通っていることがわかります。
いざ出発!
出発時間になり、いざシャトルバスへ乗り込みます。目的地に向かうまでのバスの中では美術館内で曲がれていたものと同じ「シャングリ・ラ」を創設した「ドリス・デューク」についてのDVDが流れています。
玄関庭
シャングリ・ラに到着。ゲートをくぐってゆるやかに曲がるスロープを降りていくと、中央にバニヤンの大木がそびえる中庭にたどり着きます。そして、向こう側に広がるそれが玄関口とは一見してわからないような、アラビアンナイトの世界をみじんも感じさせないシンプルな造りの入り口のドアは、エジプトのもので、表面施された彫刻も独特のパターンです。
入り口の建築は南アフリカなどでよく見られるスタイルで、ドリス・デュークが世間の喧騒から離れ、誰にも邪魔されずにとっておきの時間を過ごすことのできる秘密の隠れ家の入口としてかえってシンプル・イズ・ザ・ベストのよさをも引き出しています。
玄関庭の大きなバニヤンツリー
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エジプトから買い付けた玄関の扉
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そして扉の向こうには、、、
扉を開けて邸に一歩足を踏み入れると、床、天井、壁まですべてが手の込んだアートで埋め尽くされたロビーで、一気にシャングリラ・ワールドに引き込まれてゆきます。煌びやかなモロッコ風の天井、壁を埋め尽くす600枚のトルコ・タイル、インドやイラン、中東各国からひとつひとつ集めた織物や置物が一堂に集まっています。中東の多様な国や時代のものを一様に一室のなかに並べる彼女のディスプレーのテクニックは、シャングリラ全体に見受けますが、このロビーはまさにその象徴といえます。
光の降り注ぐ作りの中庭(コートヤード)は、トロピカルな雰囲気を味わいつつ、トルコのカラフルなタイルをじっくりと鑑賞できる、さいしょの空間となっています。鮮やかな青を基調としたタイルのアートはつやつやと輝き、光の加減で素敵に表情を変え、昼間も夜も幾通りもの魅力をみせています。
夜の中庭の風景も格別(写真提供:National Geographic Magazine)
開放的なリビング
ハワイの気候を生かし、明るく開放的な雰囲気を出しているのがこのリビングルームで、イスラムアートの数々が配置されながらも、特注の大きなガラス窓の向こうには、手入れが行きとどいた芝生、スイミングプール、その奥のプレイハウス、また、ダイヤモンドヘッドとビーチを一望できる眺めは、見事にハワイの自然の美とイスラムアートのミステリアスな魅力を融合させています。
写真提供:David Franzenc Doris Duke Foundation for Islamic Art
最初に通されるゲスト用のお部屋、トルコルーム
シャングリラはいつでも現在進行形だったといいます。ドリスの友人が彼女に「シャングリ・ラはいつ完成したの?」という友人の問いにドリスは「未だ完成していないし、完成なんて言葉はシャングリラにはないの」と笑いながら答えたという話は有名です。それぐらい彼女は常に手をかけることをやめなかったのです。トルコルームはその一つでした。
ゲストを招くと最初に招きいれる部屋としてこのトルコルームをしようしました。モダンなデザインともいえる大きなベンチは、クッションを並べ替えてゲストが就寝できるようにデザインされたものなのだそう。また、部屋に通されたげすとは天井から壁際の棚におかれた芸術品を鑑賞できるようになっています。
写真提供:David Franzenc Doris Duke Foundation for Islamic Art
ムガール庭園
このスタイル、どこかで見たことはありませんか?長く続く水路とシンメトリーに植えられた木々。これはインド北部に発達したムガール庭園の特徴で、タージマハールに続くその庭園を模したものなのです。それに比べるとやや小規模とはいえますが、夜になると明かりが灯り、幻想的な雰囲気を醸し出すのはタージマハールと同様です。
ツアーを終えて
ガイドの女性がシャングリ・ラ邸内を見せてくれた最後にはまた最初の入り口に戻り、ツアー中につけていた名札を返却し、帰りのシャトルで再びホノルル・アート。ミュージアム(ホノルル美術館)まで戻ります。
いかがでしたか?
ここハワイにてまさかこんなに本格的な中近東スタイルのアートをはじめ、まるでお城のような邸宅があるなんて想像もしなかった人も多いでしょう。実は私ナビもそのひとり。美大出身ということもありもともと芸術好きなので、ドリスの底なしに大好きなイスラムアートの収集と、ハワイの美しい自然との融合にのめりこんでいった「オタク感」はよ~く理解できるのです。
みなさんも、ショッピングの日にちを1日減らしてでも見に来る価値のある「シャングリ・ラ」。普段は目にすることのない芸術品鑑賞のよい機会にもなり、新しい発見があること請け合いです!
以上、ナビがお伝えしました。
マハロ!